豊田工業大学 研究センタースマートエネルギー技術研究センター
2012年設立 センター長:大下 祥雄
エネルギーの変換・貯蔵
革新的熱流制御素子(熱ダイオード、熱流スイッチング素子)の開発
研究テーマ
- 全固体熱ダイオードの開発
- 電場で動作する熱流スイッチング素子の開発
- 磁場で動作する熱流スイッチング素子の開発
主な研究内容・成果
①全固体熱ダイオードの創製
廃熱を必要なところに移動させ有効利用できれば,省エネルギー化につながることは間違いない.しかしながら,固体材料を流れる熱流は,温度勾配によりその方向が決定され,かつ,温度勾配の大きさと固体の熱伝導度により流れの大きさが決定され手いるために,任意の方向に熱を流すことは容易ではない.本研究で開発している素子は,熱流の大きさが方向により大きく変化するものであり,熱の整流効果を生み出すことができる.すなわち.熱のダイオードである.これまでに,3倍に近い熱整流比を生み出すことに成功しており,全固体熱ダイオードとしては世界最高の性能を得ている.
②熱流スイッチング素子の開発
熱流を電場により制御できれば,任意のタイミングで熱を流すことや,遮断することができ,廃熱利用技術の中核となるはずである.我々の研究グループでは,電子熱伝導度を電場で制御する指針で熱流スイッチング素子の開発を行っている.
③磁場で動作する熱流スイッチング素子の開発
巨大な磁気熱伝導度効果(磁場により熱伝導度が変化する効果)を得るための条件として,格子熱伝導度が著しく小さく,かつ,磁気抵抗効果が顕著に現れることを指針として材料探索を行い, Ag2Teに室温で9Tの磁場を印加することで,最大で,60%も熱伝導度が減少することを見出した.毒性の高いカドミウムヒ素化合物で同程度の効果が報告されているが,毒性のない材料で同じ性能を達成したことで,磁場に因る熱スイッチ材料の実用化につながる研究成果であると言える.スイッチング特性のさらなる向上を目指し,より低い格子熱伝導度と,より大きな磁気抵抗効果を共存させる条件を得る研究を行っている.
Ag2Teにおいて観測した顕著な磁気熱伝導度効果.比較のために用いたAg2Sでは磁気熱伝導度効果は全く生じていない.
エネルギー高効率利用のための燃焼技術・熱設計技術
研究テーマ
- エネルギー機器における伝熱(接触熱抵抗ほか)
- 高圧気体の燃焼機構、保炎条件、および安全工学の研究
- 固体、粗悪液体燃料の燃焼・ガス化機構、高粘度液体の噴霧
- 再生可能エネルギー(バイオマス等)の高度エネルギー変換
主な研究内容・成果
①高圧噴流拡散火炎の着火および保炎機構の解明
ロケット,ボイラー,ガスタービン等のほとんど全ての燃焼器では,加圧した燃料を噴出して燃焼を継続させる.また,注目されている水素ステーションには1000気圧程度の高圧水素が備蓄されており,地震などのアクシデントでそれが噴出した場合の現象は,完全に予測しておく必要がある.高圧気体が周囲の空気と混合して着火する部分では,噴出条件によって決まる混合乱流スケール(波数),流速,化学反応速度の相関で保炎の可否,および保炎位置が決まることが見い出された.
乱流スケール(波数)とエネルギーの関係
ノズルの形式による保炎位置の変化(シュリーレン写真法,上:straight, 下:divergent)
②接触熱抵抗の解明
接触している2つの固体の接触面を通して熱が流れるとき,その接触面におけるそれぞれの固体の表面温度は等しくならず温度が見かけ上不連続になり,熱移動が阻害されます.コンピュータのCPUの高出力化や原動機の冷却など,この接触熱抵抗を減少させることが求められます.太陽から強烈な輻射を受ける人工衛星では真空中なので対流伝熱が無いため,接触熱抵抗の減少は大きな課題です.下図は宇宙空間の熱抵抗の問題を視野に入れ,雰囲気圧力と接触熱抵抗の関係を実験的に計測した例を示します.高真空では分子同士の衝突は無視できる完全な分子流になりますが,圧力が増加するに従い,分子同士の衝突,すなわち分子拡散が始まり,圧力依存性が見られなくなります
固体同士の接触面における熱抵抗
雰囲気圧力と接触熱抵抗の関係
③草本系バイオマスのガス化における共存ガスの影響
再生可能エネルギーとして期待されるバイオマスの利用促進には,ガス化や液化による減容化が必須とされる.これまでの研究における熱分解やガス化反応速度の計測および解析はで,共存ガスの影響が考慮されていないが,特に部分酸化ガス化炉では燃焼によって生じたCO2が常に高濃度で共存している.そこで,バイオマスの熱分解をCO2の存在下で行わせ,生成したチャーの性状を調べると共に,そのチャーのガス化反応性を調べた. その結果,バイオマスチャー作製をCO₂雰囲気で行う事で,反応率が低い低温範囲からガス化反応が起こり易いチャーが生成すること,また,乾留条件(温度および共存CO2の濃度)を変化させて作製したチャーのラマン分光スペクトル,および炭素の欠陥構造の尺度であるGピークとDピークの強度より,共存CO2によるチャー炭素構造に変化は見られず,低温反応性の違いは官能基に依存するものと推定された.
高効率電池開発に向けた電極触媒素材の微視的研究
研究テーマ
- ナノカーボンの合成と制御
- 表面局所構造(欠陥、ドメイン境界)のナノレベル評価
- ナノスケールの化学・電極反応のその場観察
主な研究内容・成果
①高品質グラフェン合成と新規合成法の提案
自作の大気圧熱化学気相成長(CVD)装置を用いた合成条件の精密な制御により、グラフェンのドメインサイズを制御。グラフェンのCVD合成時におけるH2ガス導入量を調整(0 ~ 70 sccm)することにより、グラフェンの核生成速度と結晶成長速度およびグラフェンエッジのエッチング速度のバランスを制御(図(a))し、ミリサイズの単結晶合成に成功(図(b))。
Cu基板上へのTa板を用いたマスクによる簡便な大面積の単結晶グラフェン合成法を提案した。Cu基板上にTaマスクを設置することで、基板上の活性炭素や吸着水素量を調整し、3ミリサイズの単結晶グラフェンの合成に成功。
②垂直配向カーボンナノチューブを用いた高静電容量電気二重層キャパシタ電極の提案
高い静電容量を有する電気二重層キャパシタ(EDLC)用のカーボンナノチューブ(CNT)/グラファイト複合電極の作製に成功。
表面形状をプラズマエッチングにより修飾した高配向熱分解グラファイト(HOPG)上に、アルコール触媒CVDにより垂直配向CNTを成長させることに成功。合成した垂直配向CNT/HOPG複合電極は、未修飾のグラファイト電極と比較して約8倍の静電容量を示した。
電池の高性能化に向けたイオン伝導性セラミックスの研究
研究テーマ
- 配向制御によるイオン伝導性向上 ~伝導異方性の利用
- 高速イオン伝導性を示す新規な母構造の探索
- 中温域作動型燃料電池用イオン伝導体の研究
- 固体内イオン伝導機構の解明
主な研究内容・成果
①酸化物イオン伝導性セラミックスの結晶配向制御に関する基礎的研究
異方伝導性を最大限に活かすため、結晶の向きを揃えたイオン伝導性セラミックスの合成法を検討している。具体的には、中温域作動型SOFC用の電解質の候補材料であり、 c 軸方向に高い酸化物イオン伝導性を示すアパタイト型ランタンシリケート(LSO)に着目している。新しい概念を導入した発展型の反応性テンプレート粒成長法によりc軸配向LSOセラミックスを実現すべく、Reactive substrateとして石英ガラス基板を使用した基礎的研究を始め、基板上にc軸自己配向LSO薄膜が形成することを見出した。
SiO2をReactive substrateとして用いた基礎的研究
石英ガラス基板上に生成したc軸配向LSO薄膜
半導体・磁性材料の融合による電力貯蔵・変換技術
研究テーマ
- 高効率電気機器のための実使用時における鉄損現象の解明
- 損失低減、高力率電力貯蔵装置の研究
- パワエレ機器の太陽光素子への影響評価
- 電力ネット・EVと太陽光発電との相互作用
主な研究内容・成果
①低損失・高力率電力貯蔵装置の研究
- インバータによる損失増現象の解明と対策
- 電力用半導体と鉄損との相互作用の解明
- 同上の原理による電力フライホイール装置の研究
- 太陽光に適した貯蔵システムの研究
②電力ネット・EVと太陽光発電との相互作用の研究開発
太陽光発電といった再生可能エネルギーは、電力生成の不安定性より電力貯蔵を必要としている。電気自動車(EV)はその手段の一つであると同時に、電力ネットにとっても不安定要因ともあるため、その相互作用を研究し系統安定化を目指す。
エネルギー貯蔵燃料の再生に向けた金属クラスター触媒の開発研究
研究テーマ
- 担持型金属ナノクラスターの創製と触媒機能
- サブナノサイズの金属クラスターの創製と触媒機能
主な研究内容・成果
①担持型金属ナノクラスターの創製と触媒機能
表面構造制御された炭素ナノ繊維(CNF)に対し有機金属錯体の穏和な分解反応を適用することで,ナノサイズの金属クラスター(Ru, Rh, Ir, Pd, Pt)の精密担持に成功.これらは芳香環やニトロ基,アルケン等の多重結合の水素化反応において,市販の活性炭担持触媒と比較して高い活性や繰返し耐久性を示す.
また,窒素官能基を導入した含窒素CNFや活性炭を担体として用いることで,金属/窒素比により触媒活性の制御と化学選択性の飛躍的向上を実現.
②サブナノサイズの金属クラスターの創製と触媒機能
市販の活性炭担持触媒や金属錯体などにヒドロシランを作用させることで,TEMで観測できない微小な可溶性金属クラスターが発生することを見出した.この可溶性クラスターはヒドロシランを用いたアミドの脱酸素型還元やエステルの部分還元,さらに従来の触媒では困難であったt-Bu基の触媒的脱保護反応に高活性を示す.